胃ろう・延命を迫られたら
医師監修

「胃ろうを、どうしますか」
「これ以上の治療を、続けますか」
そう問われて、すぐに答えられる人は、多くありません。
問われているのは、親のいのちに関わることです。
気持ちが追いつかないのは、あたりまえです。
この記事は、答えを出す記事ではありません。
決め方の枠組みと、確かめられる事実を、順に並べます。
何かをすすめることも、しません。
順に。ひとつずつ。
一人で決めることでは、ありません
まず、お伝えしたいことがあります。
この決定を、ご家族が一人で背負う仕組みには、なっていません。
国は、決め方の枠組みを公表しています。
厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」です。
2007年に作られ、2018年3月に改訂されました。
このガイドラインは、こう定めています。
医療・ケアは「本人による意思決定を基本とする」。
そして、本人・ご家族と、医師をはじめとする医療・ケアチームが「十分な話し合い」を重ね、合意をつくっていく。
本人の意思は変わることがあるため、話し合いは「繰り返し行われることが重要」とされています。
つまり、決めるのはご家族だけではありません。
医師や看護師をふくむチームと、一緒に考えていく道すじが、示されています。
本人が思いを伝えられない状態のときは、ご家族が本人の意思を推し量って伝える。
この枠組みが、公的に定められています。
制度や考え方は変わることがあります。担当の医療機関でお確かめください。
順に。ひとつずつ。
人工栄養という選択肢が、あります
口から食べることが、むずかしくなる。
そのとき、水分や栄養をどう補うか、という話が出てきます。
口以外の方法で水分・栄養を補うことを、まとめて「人工的水分・栄養補給法」といいます。
日本老年医学会のガイドラインは、その方法をこう挙げています。
胃ろうによる栄養法、鼻から管を入れる経鼻経管栄養法、血管から補う中心静脈栄養法などです。
胃ろうは、その選択肢のひとつ、という位置づけです。
こうした人工栄養や、人工呼吸器といった医療行為をどうするか。
日本老年医学会は2025年の「立場表明」で、その適否は「緩和ケアの視点から慎重に検討されるべき」としています。
どれがよいか、を国や学会が一律に決めているわけではありません。
一人ひとりの状態と考え方に応じて、医療・ケアチームと確かめていく事柄です。
おやしるべは、どの方法がよい・わるいという判断はしません。
選択肢が存在すること、それを決める枠組みがあること、までをお伝えします。
順に。ひとつずつ。
始めないこと、やめることも、枠組みのなかにあります
ここは、誤解されやすいところです。
「一度始めたら、やめられない」と考える方がいます。
けれど、公的な枠組みは、そうは書いていません。
厚生労働省のガイドラインは、医療・ケア行為について、こう並べています。
「開始・不開始」、内容の「変更」、行為の「中止等」。
始めることも、始めないことも、変えることも、やめることも。
いずれも、医療・ケアチームが「医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべき」対象として、同じ枠組みに位置づけられています。
日本老年医学会のガイドラインも、人工栄養について「導入しないことも含む」諸選択肢を挙げ、益と害の観点から最善を見出す、としています。
つまり「始めない」も「やめる」も、枠組みの外にある特別なことではありません。
ここでも、おやしるべは是非を申しません。
始めるべきだ、とも、やめるべきだ、とも言いません。
公的資料に、その選択が枠組みのなかにある、と書かれている事実をお伝えするだけです。
どの選択がよいかは、本人の意思を中心に、医療・ケアチームと話し合って決めることとされています。
順に。ひとつずつ。
迷うときの、相談先
迷って、あたりまえの場面です。
迷いは、相談してよいことです。
まず、担当の医師(主治医)です。
病状や、それぞれの選択肢の見通しを、いちばん近くで説明できる立場です。
わからないことは、遠慮なくたずねられます。
つぎに、緩和ケアです。
厚生労働省のガイドラインは、苦痛をやわらげる緩和ケアを、総合的な医療・ケアの一部として位置づけています。
苦痛の緩和について、緩和ケアのチームに相談できる医療機関もあります。
主治医とは別の医師の意見を聞きたい、と思うこともあります。
これは、セカンドオピニオンと呼ばれます。
医療法は、医師に対し、必要に応じて他の医療機関を紹介し、診療の情報を提供するよう努めることを定めています。
別の意見を聞きたいときは、その希望を主治医に伝えられます。
医療への相談や苦情の窓口として、各都道府県などが「医療安全支援センター」を設けています。
医療法にもとづく、公的な相談の場です。
どこに相談してよいか迷うときの、ひとつの入り口になります。
制度や窓口は変わることがあります。各窓口でお確かめください。
順に。ひとつずつ。
家で亡くなったときの、連絡のこと
在宅で看取りに向かうとき、心配になることがあります。
「家で亡くなったら、どこに連絡するのか」。
ここには、広く知られた誤解があるので、事実を確かめます。
まず、急なとき、命に関わるときの話です。
息をしていない、様子が急に変わった。
救命の可能性が少しでもあるときは、まず119番に電話してください。
救急車を呼ぶか迷うときは、♯7119でも相談できます。
これは、判断に迷ったときに医師・看護師などから電話で助言を受けられる、消防庁の相談窓口です(実施は地域によります)。
急変のときに救急を呼ぶことを、この記事はためらわせません。
そのうえで、「24時間ルール」と呼ばれる誤解について、です。
「最後に診てもらってから24時間以上たつと、医師は死亡診断書を書けず、警察の検死になる」。
そう思っている方がいます。
けれど、これは正確ではありません。
もとになっているのは、医師法第20条です。
条文には、ただし書があります。
「診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない」。
このただし書について、厚生労働省は2012年(平成24年)に、運用の通知を出しています。
通知は、こう述べています。
「医師が死亡の際に立ち会つておらず、生前の診察後二十四時間を経過した場合であつても、死亡後改めて診察を行い、生前に診療していた傷病に関連する死亡であると判定できる場合には、死亡診断書を交付することができること」。
言いかえると、こうです。
最後の診察から24時間を過ぎていても、医師が亡くなったあとに改めて診察して、生前に診ていた病気に関連する死だと判断できれば、死亡診断書は交付できます。
24時間を過ぎたら自動的に警察の検死になる、というのは誤解です。
そのため、在宅で療養している場合は、亡くなったときにまず、生前に診てもらっていた医師(在宅の主治医)や訪問看護に連絡する、と案内されることが多いです。
連絡先と手順は、あらかじめ、かかりつけの医療機関に確かめておけます。
ただし、同じ通知は、もう一つのことも述べています。
改めて診察しても、生前に診ていた病気に関連する死だと判定できない場合や、体に異状が認められる場合は、警察署への届出が必要になる、ということです。
これも、法律で定められた手順です。
なお、「火葬・埋葬は死亡後24時間を過ぎてから」という、別の24時間の定めもあります。
これは葬儀の手順の話で、危篤と言われたらにまとめました。
死亡診断書の24時間と、混同しないようにお伝えしました。
制度や運用は変わることがあります。各窓口でお確かめください。
順に。ひとつずつ。
急がなくて、大丈夫です
最後に、時間の話をします。
多くのことが、一度には決められません。
人工栄養を、どうするか。
治療を、どこまで続けるか。
どこで、どう過ごしてもらうか。
一度に全部は、決めなくてよいのです。
方針は、話し合いながら、変えていってよいものとされています。
本人の意思は変わることがある、と公的な枠組みも認めています。
まず、担当の医師に、いまの状態と選択肢をたずねるところからです。
そこから、順番が見えてきます。
今日はひとつで、十分です。
順に。ひとつずつ。
出典と参照日
- 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(平成30年3月改訂)・厚生労働省(参照日 2026-07-24)
- 同 解説編・厚生労働省(参照日 2026-07-24)
- 「人生会議」してみませんか・厚生労働省(参照日 2026-07-24)
- 高齢者の人生の最終段階における医療・ケアに関する立場表明2025(2025年6月27日)・日本老年医学会(参照日 2026-07-24)
- 高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン ~人工的水分・栄養補給の導入を中心として~(2012年6月27日)・日本老年医学会(参照日 2026-07-24)
- 医師法(昭和二十三年法律第二百一号)・e-Gov法令検索(参照日 2026-07-24)
- 令和8年版 死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル(厚生労働省・平成24年8月31日付け医政医発0831第1号を逐語掲載)(参照日 2026-07-24)
- 医療法(昭和二十三年法律第二百五号)・e-Gov法令検索(参照日 2026-07-24)
- 救急安心センター事業(♯7119)ってナニ?・総務省消防庁(参照日 2026-07-24)
制度は変わることがあります。各窓口でお確かめください。